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Record #06-2 -- oxford record -- [ PREV ] [ NEXT ]




Record Details


くるり 学(まなぶ)の 牛津録
Record #: 06-2

Title: 「亀と羊と兎とハギス」(二)

Issued on: 2002年3月22日
Last modified: 2002年3月23日

メルマガで発行したモノを、加筆修正して、随時ここにアップしていきます。



your picture here
◎編集後記


 どうも、発行人のくるり学(まなぶ)です。今回の話、いかがだったでしょうか。全然終わってませんね。また壷にはまってますね。はい、また長いです。でも今回は詩の関係上長く見えるだけなので、ご容赦下さい。次号にもバーンズの詩が登場する予定です。

□前号と詩の解説

 えー、間違った知識を与えると、気が引けますので解説しておきます。
 前号(第六録の一)にある、英国人記者の翻訳は、ほぼ私による創作です。スコットランドのサイトに、ハギスをさも存在するかのように語るサイトが沢山ありますが、実は雪男の類なんです。こちらに来たばかりの頃、イギリスに初めて来た外国人に、皆がこぞってハギスの話をする、なんてことをされまして、僕もそれに従ってみました。もし、気分を害された方がいた場合、ここで謝らせて頂きたいと思います。m(_ _)m

 さてさて、「ハギスに捧ぐ」の詩の方です。
 読めば分かる通り、ハギスをたたえまくる詩になっています。
 形式は韻を踏む、韻文詩で、最初の節では各行がceかmで終わり、
 ス ス ス ム ス ム そこから ルルルドゥルドゥ トゥトゥトゥチトュチ
と言う脚韻になってる訳です。こういう韻文は声に出して読まないと意味がないんですが、こうも文章が方言だと無理ですよね。

 この音読に最適化された詩にスコットランド特有の表現等を取り込み、バカらしくも美しい唱を作り上げた訳です。次号で少し触れる予定なんですが、作者のバーンズ(故人)は農村に住んでいまして、機械(主に粉挽き機械)や水路(ディッチ)と言ったスコットランドの田舎的描写もふんだんに入り、庶民感覚があるのに美しい調べ、まさに国民的になるにふさわしい詩人の様です。時代的に言って、丁度、日本の夏目漱石に対応しているかもしれません。

 参考サイト:
  ハギス猟     http://www.haggishunt.com/
  バーンズ倶楽部  http://www.worldburnsclub.com/
   ※どちらも英語サイトです。ハギスの絵は必見。

□近況――先週末

 ロンドン行ってきました!
 週末、コーチに揺られて渋滞の中を進んでいると、じわじわ「おら、田舎からトカイさ出てるだ〜」という気分になってしまいました。ロンドンの空は、遠くから見ると燃えてるだな〜、なんて。

 ロンドン中心部の中心、SOHOの角にピカデリーサーカスがありまして、そこから歩いて5分の所にある、地中海系のレストランに行って、久々魚介類を食べました。日本人主催のパーティだったんですが、目の前には、「私ニホンジンです」という顔をした青い目のスケベオヤジが座り、間には日本人の女の子! くるりとオヤジ、女の子を挟んで突然の攻防が交わされましたとさ。

 この日本語の攻防、さぞかし変だったに違いありません。変な国では変なことも起こるもんです。この日の別話は、前号第三録のメルマガ天国バージョンに載せたので、興味のある方は、くるりサイトの一番下、登録フォームの右側にある●をクリックして覗いてみてください。

 ロンドンに行けば、沢山レストランあって、イギリスが不味い国だなんて忘れてしまいますねー。いいなロンドン。家賃の高さを覗けば。
 なんて言いながら、また明日ロンドンに行きます。ディナー誘われちゃったので。

□近況――Oxford

 日本の大学も既に春休み真っ最中ですね。昨日、街歩きをしていたら、日本人らしき団体がちらほら。明らかにここの大学生じゃない人々。女の子一人歩きもちらほら。めちゃメチャ目立つので確実にスリのターゲットになりますね。あれは。
 ロンドンほどじゃないですが、この国はやたらとスリが居るので、充分注意してください。バッグは蓋の開きにくいもの。最低、自分の横、できれば自分の前に持ってくること。

 この国の人って現金を持ち歩かないので(小切手かカード)、現金を持っている日本人は余計ターゲットにされますよお。

 そんなことを思いながら、ちょろちょろっと見てました。ちょとぐらいお喋りしてみたいかな。読者の中で来てたりして、なんて。

 さてさて、そんな方々向けOX情報。
 長距離バス(コーチ)発着場のグロースター・グリーンが22日まで工事中です。仮発着場まで20分置きにシャトルバスが出てて、歩いて10分南に行った所に連れてかれます。例の巨大駐車場の近く。といっても、今日で終わりですね。遅すぎだっての。

□次回予告

 次号は、第六録の三「亀と羊と兎とハギス(三)」です。詩あり、話あり、(今度こそ)どたばたありのパーティ模様。来週発行の予定です。お楽しみに!

 メールで質問など送って下されば、文章の中でちょこちょこ応えていこうと思ってますので、皆さんどしどしメール下さい。個別に返信できる自信は余りないです(汗)。

by Kururi
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発行者名:くるり 学 (kururi@lycos.co.uk)
マガジン名:英国留学 牛津録
発行周期:ほぼ隔週刊(不定期って申請したのに[泣])
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SIDENOTES

 *  掲載されている原文はスコットランドの方言(英語スコットランド方言の中にも更に方言がある)で、上記原文を参照しつつ、訳出された標準英文を日本語訳した。
   記:『ハギスに捧ぐ』全7節中、最初の3節を訳した。

 *14 SCR……シニアー・コモン・ルーム(Senior Common Room)の略で、教授等アカデミックスタッフ用の部屋、またその人々やコミュニティ、その運営組織を指す。階級社会の一典型。第三録の二・三、参照。

 *15 グラスゴー……西部スコットランドにあるスコットランド第二の都市。一昔前、テロなどで問題になった北部アイルランド(英国)とは、海を挟んでほぼ対岸に位置する。

 *16 第三録の二、参照。

 *17 切り裂きジャック……近代英国史に実在する、大量猟奇殺人者。通り魔の原形。通り魔ジャックとも言う。つまり、通り魔事件はイギリス発祥で、今でも意外にある。(特にロンドン中心部)

 *18 いがらし〜……解説必要なんでしょうね(ガックシ)「キャンディ・キャンディ」孤児院にいた少女キャンディが、ある日突然大貴族の養子になって…、というイギリスを舞台にした古典的漫画。英王室はスコットランド王室の流れを汲むので、貴族にもスコットランド系が多い。


  • 登場英単語:
    切り裂きジャック …… Jack the ripper
    馬子にも衣装というより、それじゃあ切り裂きジャックだろ。 …… You must be Jack the Ripper rather than a dressed baby horse.(使えませんね;P)



Body

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■DOMI|MINA■  くるり学 の                ■■■■
■ NVS|TIO ■          牛津録           ■■■■
■ILLV|MEA ■        oxford  record         ■■■■
■ |VVV| ■                第六録の二   ■■■■
■■■■■■■************************■■■■

●第六録「亀と羊と兎とハギス」(二) 
───────────────────────────────────
◆汝、ハギスの前に……
───────────────────────────────────
 
  どこかで予兆も無く、金属と木材の、擦れるような音が聞こえた。
  振り返ると丁度、あの古めかしいドアがゆっくりと開いていく所で、続
 いて、女の人が一人、向こう側に立っているのが見える。
 
  ドアの向こうのその人は、よくカレッジのホールで見かけるSCR
 (*14)な人達用のウェイトレスさんだ。もちろん、美しい。それから彼女
 は、ゆっくりと歩を進めて中に入って来る。良く見ると、何だか頭に兎の
 耳でもつけてそうな格好をしているじゃないか。決してハイレグの編みタ
 イツって訳じゃないんだけど、嫌いじゃないドレス。いや、人間素直にな
 ろう。好みです。オヤジ趣味とは敢えて呼ばない。おっと、鼻の下には気
 を付けねば。
 
  それから突然けたたましい音が場内に鳴り響き、体の奥まで沁み込んで
 来る。ブタか羊の鳴いたような音色……これだ。これが例の「バグ・パイ
 プ」の音だ。誤って、梅雨まっ最中のウシガエルを想像しそうになったけ
 れど何とか掻き消す。
 
  なだらかな草原の向こうにほんの少し隆起した丘が見え、そこに一本の
 木が立ちつくす。その周りを羊達がたむろしており、メーメーと嬉しそう
 な、それでいて何だか悲しそうな声を上げている。草が静かになびいてる
 原っぱの上に、大きな雲の陰と輪郭が大自然の運動を伝え、瞬く間に大ス
 クリーンへと変貌していく。
 
  そんな、西洋絵画のような牧歌的風景を思い描いていると、足音が聞こ
 えて我に帰った。会場の中ほどに座っていた僕らの席に先程の二人がやっ
 て来たのだ。いや、三人?
 
  先頭には先程のウェイトレスさん、その後ろを、あれ、お前なんでそこ
 にいるの?
  二人目の男は、僕の一期下の人間で、この前一緒に酒を飲みながらグラ
 スゴー(*15)の話をしてくれた奴だ。スコットランドの新年祝いの話をし
 てくれてたっけ。どちらかと言うとゴツゴツとした顔で、笑顔に人の良さ
 が表れる。名前は……確か、ジャック。
 
  視線を戻して、きれいなウェイトレスさんに見とれていると、彼女が突
 然こちらを向いて僕と一瞬目が合う。思わず僕がほほえむと、彼女も一瞬
 ほほえみを投げかけてくれた。「ほほえむ姿もぐっとくるよ(低音)」と
 心の中で囁いていると、すぐ後ろのジャックが視界に入ってきて、僕にウィ
 ンク。まただよ、おい(*16)。タイミングよすぎるよ、というか悪すぎる
 よ、というかなんでお前そこにいるの?
 
  それにしても、馬子にも衣装とはこのことだ。ジャックは艶やかなスコッ
 トランドの民族衣装に身を包み、手に、刃渡り1フィートほどのナイフを
 持っている。ナイフの物騒さとそいつの屈託ない笑顔が、奇妙なコントラ
 ストを成していた。無性にジャックの耳元に囁きたい衝動に駆られる。
 「そんなに笑うと却って不気味だよ。馬子にも衣装というより、それじゃ
 あ切り裂きジャックだろ(*17)」なんて。
 
  こんな奴より、女の子女の子。
  ウェイトレスさんの手には大きな金属皿があって、その上に、丸焼きに
 された、変な球体状の物質が乗っている。ぱっと見ると、まるで漫画に出
 てくるブタの丸焼きから足をもぎ取った感じだ。何だあれは、と疑問に思
 う前に隣りの奴が囁いてきた。「あれがハギスだよ」
  驚いた顔をそいつに見せている隙に、獲物は目の前を通り過ぎてしまっ
 た。
 
  三人目の男は、これまた民族衣装をまとって脇にはバグパイプを抱えて
 いる。間近で見ると、でっかいハギスに見えないこともない。小さい頃に
 日本で吹いていたリコーダーのような筒が、三本四本と白ハギスから飛び
 出していて、妙に親近感を覚えた。
 
  そんな感傷も束の間、前の二人と一緒に、バグパイプもすぐさま通り過
 ぎてしまった。まるで救急車にでも遭遇した感じだ。通り過ぎたその救急
 車は、遠くから聞くと「あーのねーのねー」と言っているように聞こえた
 り、TVアニメのブタの鳴き声にも聞こえ、いがらしゆみこの漫画(*18)
 に出ていた楽器のようにも聞こえたり。(そりゃ本物だ)丘の上の王子様
 が『ハギス』持って出てきたりしたら、びっくりするだろうな。
 
  一隊はまもなく、一段高いハイ・テーブルに到着して、何やら聞き取り
 にくい言葉で語り始める。語りと言うより、ちょっとした一人芝居に近い。
 良く聞いてみると一応英語なんだけど、凄く癖のあるスコットランド方言
 だかなんだかのせいで、雰囲気しかつかめない。でもそのせいで雰囲気は
 満点だった。
 
 
 「やあやあ我こそは、
    偉大なるスコットランドはゴードンの末裔、ジャックである。
  皆の者の健康と今日と言う日の祝福の為、七日七晩の旅に出てきた。
   〜中略〜
  やあっ たあっ と踊り出て、必死の思いで捕まえて来た。
  諸君らも心して食す様に」
 
 
  羊の胃にラムのミンチを詰めただけの物なのに、何とも大げさだ。
  周囲からは、大きな歓声が沸き起こり、台上のジャックを無意味にはや
 し立てている。お前ら、昨日一緒にカレッジのバーで飲んでたじゃないか。
 ノリがいいんだか、いい加減なんだか。とにかくそう思った。もちろん、
 半身立ち上がったまま口笛を吹いている自分の事は棚に上げて。
 
  暫くして会場が静かになると、ジャックは突然剣を振りかざし、一篇の
 詩を読み上げ始めた。
 
 
        Address To A Haggis 
          『ハギスに捧ぐ』
      
        Fair fa' your honest, sonsie face,
        Great chieftain o' the pudding-race!
        Aboon them a' yet tak your place,
        Painch, tripe, or thairm:
        Weel are ye wordy o' a grace
        As lang's my arm.
      
          ようこそ、汝、正直な丸顔よ、
          偉大なるプリン族の族長よ!
          彼ら全ての上に、汝、己が場所を有す。
          牛肉、牛の胃、若しくは子羊肉の上に:
          汝、神の祝福に値するのだ、
          我が腕と共に。
      
        The groaning trencher there ye fill,
        Your hurdies like a distant hill
        Your pin was help to mend a mill,
        In time o' need,
        While thro' your pores the dews distil,
        Like amber bead.
      
          呻き声を上げる皿を 汝は満たし
          (不満で充るつ塹壕兵を 汝は満たし)
          汝のお後(しり) あたかも遠き丘の如し
          (丘=氷河で切り立った巨大な崖を指す)
          汝の留め具 恐らく機械をも直し
          必要とあらば
          (食事の際には)
          汝の毛穴より雫が蒸留されるその時
          琥珀色の寝台になるであろう
          (うまそうになるだろう)
      
        His knife see rustic Labour dight,
        An' cut you up wi' ready sleight,
        Trenching your gushing entrails bright,
        Like ony ditch;
        And then, O what a glorious sight,
        Warm-reekin', rich!
      
          彼の短刀 その性根良き荒くれ者が拭う
          彼の全力を尽くし 汝を真二つにせんが為に
          沸きいづる汝が臓物の 輝かしきを現す
          まるで水路の如き
          而(しこう)して、おお何と神々しき光景、
          温もり、腕を広げるかに、豊かなるかな!
      
      
      (from "Address To A Haggis" by R.Burns; くるり学訳)(*)
 
 
  朗読の声が途切れた後、皆の視線はジャックのナイフに注がれる。
  視線の集中がピークを迎えた瞬間、振り上げていたナイフはそのままき
 れいに振り下ろされた。きれいな女性の目の前、まん丸いハギスの真中に
 突き刺さり、それからブスリと真っ二つにする。遠目からも汁が零れ出て
 いるのが分かる。うーん。見るだけだったら、重厚で旨そうだ。
 
  一同拍手。それから、一隊は元来た道を戻って行った。
  それにしても、台上の格好よさに比べて帰っていく様はなんとも所在な
 さげだ。そう言う所の演出を、こっちの人は意外にも気にしないんだよな。
 イギリス人は格好いいんだか大雑把なんだか。まあ、多分どっちもなんだ
 けど。
 
  そんな感じで、儀式は無事終了した。
  ジャック・ザ・ゴードンさん、お疲れさま。
 
 
  (つづく) 
 
 
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